10月27日(火)から11月3日(火)まで『sand cafe』はお休みさせていただきます。

「moleskine」という名の手帳をジャーナリストの女性に教えてもらってから愛用している。シンプルこの上ない作りながら、モグラ肌という名前のとおり表紙のザラザラとした独特の手触り感や硬さ、全体の仕上げの適度な粗さというものが使っているうちに魅力的に思われてくるから不思議だ。
かつては、マチスやヘミングウェイ、チャトウィンも愛用していたらしい。確かに旅に持っていきたくなる要素に富む。軽くて丈夫。ゴムバンドがついているので切符やレシート、葉っぱなど挟める便利さもある。私は気になる雑誌の切り抜きを貼ったりしている。
多機能なものよりシンプルなものの方が使い方の可能性を感じてしまうのが面白い。
重くてかさばるシステム手帳を使った時代もあったが、いろいろなガジェットが発達した今はこの手帳がベスト。
私が小さいときから近所の呉服屋さんが年末になると日めくりカレンダーをくれた。婚礼衣装を着た花嫁さんが台紙になっていたりした。子供の頃はカレンダーなどあまり興味がなかったが、カフェを始めた頃ビーチでペンキのはげた小さな流木ならぬ流ボードを拾ったことがあった。
その時なぜかこの板に日めくりカレンダーを付けようと思い立った。それから数年後その呉服屋さんは日めくりカレンダーを作らなくなった。
そして今、呉服屋さんは無い。
それからは東京の文房具屋で日めくりカレンダーを探して手に入れている。
日めくりカレンダーは、昭和の茶の間のにおいがする。
朝、店に着くと一人の男がサーフボードを持って待っていた。カミさんのいとこのgakuだった。
gakuはゴールデンオレンジ色のその板を「15周年のお祝いです」と言って私にプレゼントしてくれた。
趣味で板を削っているとは聞いていたが、ここまでやるとは思っていなかったのでその出来栄えの良さに驚くと共にその気持ちに感動した。
カリフォルニアの名シェーパー「リッチ・パヴェル」を彷彿とさせるアウトラインのクワッド(4本フィン)で横にコンペティションストライプが入ったレトロフィッシュ。厚みも結構あるのでロンガーの私でもテイクオフが楽そうだ。
すぐにイマジネーションのスクリーンは、この板に乗った時のサーフィンを映していた。そして使い込んだ数年後の姿もいい感じで投影されていた。
もうずいぶん長い間波の上で漂っていることになる。
19歳の秋、海水浴場の監視員のバイトで稼いだお金で中古のボードを買った。なかなかうまく乗れなかったけれど、海に浮かんでいるだけで、また、自分で組んだスケートボードをプッシュするだけで軽くなれたし乾くことが出来た。世の中がきらきら輝いて見えるマジックサングラスを手に入れた気分だった。
しばらく遠ざかっていた時期もあったが、あの頃のきらきらした感覚をふたたび味わいたくてロングボーダーになって久しい。それからはずっとシングルフィン一辺倒。ボードもお気に入りが1本で充分。たっぷり使い込む。
しかし年をとってしまったのか、世の中が変わりすぎてしまったのか、きらきら輝いて見えることはもうないのかもしれない。