神様の選曲

お店のカウンターに座られた事がある方ならサンドカフェのミニチュアの模型が飾られているのをご存知だろう。

その模型を製作し贈ってくれたのは、東京から波乗りに来ると時々お店に寄って頂いていた私と同年代のオールドサーファーM氏。いつも真っ直ぐな眼差しのお友達と一緒でした。

長さ24〜5cmほどの精巧な木製である。

先日久しぶりに相方のお友達がお見えになったのでM氏はお元気ですかと尋ねた。

いつもこの模型を見るとM氏達まだ波乗り続けてるのかな?とか思い出してましたから。

 

「マスターにもう少し早く伝えたかったんですが二年前の夏・・」と聞いた時心が後退りした。

「・・千倉にある宿で脳出血で倒れ亡くなったんです」と・・・

 

好きだった千倉の海が目の前の宿で旅立ってしまったM氏、それが救いだったと思った。

そのお話を聞いた後、切ないメロディーの曲が流れて来た。(カフェのBGMは古いスマホからシャッフルで流している)

「デスペラード」

イーグルスの名曲をジャズシンガーのダイアナ・クラールがカバーしているのですが思わずお友達も私もこみ上げて来るものがあった。あの頃サーフィンにハマった人ならイーグルスは避けて通れないバンドだから。

何百曲も入っている中で何と「デスペラード」がかかるとは・・

 

帰り際お友達が「Mさん、デスペラードが好きで時々口ずさんでたんですよ!」と赤い目で私に話してくれた。

あの時、あの曲は神様が選曲したんだと思った。

M氏は今、房総半島を望む三浦半島の突端に眠っている。

修復の旅

前回のブログでベネチアの「ハリーズ・バー」について書きましたが、吐露するとその時のイタリア旅行は私にとって大きな意味を持つ旅だったのです。

 

場面は今から15、6年程前にパーンしますが(古い言い方だとこうなります)その当時私はカミさんとかなりギクシャクしていてあまり良く無い関係に陥っていました。

あのまま私に「気づき」が無かったら子供を連れて実家に帰られていたかも知れませんね・・

 

それは、私の夢に付き合ってくれているカミさんに対して思いやり・優しさが足り無かったからでした・・

何とか悪くなってしまった関係を修復しようと一か八かお金はありませんでしたが私はカミさんをイタリア旅行に誘いました。

好奇心の強いカミさんなので今まで行ったことが無い「根アカ」な場所が良いと思ったのです。

 

ミラノ、フィレンツエ、ローマ、ベネチア、ナポリとイタリア縦断の旅でしたが、50歳頃のあの旅が私とカミさんのその後の人生の大きな分岐点になったと言っても過言ではありません。

そう、あの時の旅はイタリアしか考えられませんでした。

秋の夜長に・・

秋の夜長にフト思う。

知らず知らず時は流れ・・

いつしかサンドカフェに30年近い月日が流れていたと・・

 

振り返れば37歳の時に熱い思いだけで千倉にカフェをオープンした。

ジワジワ当時のことが脳裏に蘇って来る・・

 

カミさんに「飲食店はホントに大変だよ」って諭されたこと。

理想主義に走りがちな私を熟知している人の意見だった。

理想と現実のバランスをどう取るのか?この海辺の小さな町で・・

ただ私には根拠の無い確信のような物はあった。

「スタンダードなものは永く支持されると」

 

あれから30年。

小さな奇跡なのか、店はまだ続けさせて頂いている。

開店当初から変わらない「老人と海」の世界。

私の憧れるベネチアの「ハリーズ・バー」の本に書かれていた永きに渡り人々に支持されている小さな店の秘密。「シンプル」「クオリティ」「微笑み」を指標にこれからも店を続けて行ければ幸いです。

左は大好きだった安西水丸さん翻訳の日本版。右は本店で買ったイタリア語版。もう一度水の都ベネチアを訪れハリーズバー発祥のカクテル「ベリーニ」を飲んで見たいと時々思う。

「微笑み」は広く解釈すれば「愛」だと思います。

「ようこそ!」と言うおもてなしの心では無いでしょうか。

それと、もう一つの「クオリティ」をいつも厨房で支え続けてくれているカミさんに最大の賛辞を贈らねばならない。

 

そんなことを思った秋の夜長。

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