雨の休日。
波乗りは午後の雨脚を見てから出掛けるとして、いい加減に落としたコーヒーを飲みながら葉巻を吸う。
最近のいろいろな出来事を回想しながら味わうコーヒーと煙の時間。
いちばんリラックスするひと時。

瀬戸内の最終日は、この旅でいちばん予測不能だった場所「犬島精錬所」に向かうべく朝一で港に。このフェリーに乗り損ねると夕方のフライトに間に合わないからだ。
犬島に上陸すると微かにガス臭がした。チケットセンターも精錬所まで続く遊歩道もきれいに整備されている。黒っぽいカラミ煉瓦が背丈程積み上げられ迷路のようになっている。私は強烈なデ・ジャ・ブを感じていた。
精錬所の内部はタイムトンネルの様だった。百年の時差を体感できるタイムトンネル。その設計もアートワークも素晴らしい。来て良かったと思った。
カフェで飲んだ濃い犬島ジンジャーエールもオススメ。

地中美術館は直島での人気スポットで、入場整理券をまず取らなければならなかった。そして指定された時間に美術館に向かう。
白く輝く無音の空間にモネの晩年の睡蓮がある。2×4mを超える大作は離れて良し、寄って良し。マチエールは気が遠くなるほど深みがある。晩年のモネは白内障に悩まされていたとかで光の描き方などは暗めになっている。なので白く輝く部屋との相性は絶妙。
ベネッセには安藤忠雄のミュージアムが3館(家プロジェクトの南寺を入れると4館)あるが、どれも初めに作品ありきなので作品と空間がとてもいい関係にある。なんとも贅沢なスペース。
2日目の午後は、大竹伸朗の家プロジェクト「歯医者」や「アイ・ラブ湯(銭湯)」を巡り活力をもらった。

今から20年ほど前にモダンアートに傾倒していた時期があってMOMAにも出かけたりしていた。その頃香川県の直島という人口3千人くらいの島に福武書店が施主で安藤忠雄氏設計のホテルと美術館が出来たと何かで知った。多分、海岸美術館を設計した石井和紘氏の設計した役場や学校がある島だったからかもしれない。
今回「瀬戸内国際芸術祭」の開催をきっかけにその直島詣でが実現した。あれからベネッセハウスを核に家プロジェクトや犬島アートプロジェクト精錬所などその周囲の島々にもアートが拡散し、今やフランスの雑誌で世界で行くべき10の場所のひとつに選ばれるほどになっており年々内外からやって来るアート巡礼者があとを絶たないという。いやアートお遍路さんというべきか?
私たち家族もアートお遍路さんとして暑い中、路地を歩きシャトルバスや船で移動し行列にも並び行脚した。それでも楽しくて仕方ないのはアートがパワーをくれるからだ。ヨーロッパから来ている人たちもかなりいた。

下駄箱を随分久しぶりに整理していたらあの頃の靴が出てきた。モカシンが二足。20代後半から30歳くらいのまだ結婚したばかりの頃だろうか。懐かしい。
20年以上前の靴だがカビとほこりを落としたら今でも履けそうなので陰干しをしてミンクオイルを塗った。二足とも中敷にRED WOODのマークが入っていたので渋谷系のショップで購入したものだろう。
思い出したが、あの頃すごく憧れていた靴が一足あって、どうしても欲しくて雑誌の切抜きをいくつかスクラップし、コーディネートまでイメージしていたんだった。ヒザの抜けたチノパンに白のオックスフォードボタンダウンシャツとグレーのカシミアのカーディガンを合わせるとか。その頃パリのフレンチトラッドのセレクトショップ「エミスフェール」もあったな。
フランスのJ.M.WESTONのクロコダイルのローファー。欲しい、欲しいと思っていたら値段もどんどん上がり私の1ヶ月分の給料よりも高くなってしまいとうとう買えなかった。懐かしい。

キューバの歌姫、いや私は世界最高峰の歌姫だと思っているオマーラ・ポルトォンドの「gracias」がイイ。オマーラの歌を聞いていると、フワッとした大きな何かに包まれている気持ちになる。慈愛のような。
サティが「音楽の家具」ならオマーラは「音楽の宝石」といえる。例えば私の好きなオパールかな。
ラテンを集中して聞くのは夏だが、このアルバムは夏の終わりから初秋が似合うと思う。毎夜、ラムを飲みながらオマーラの歌声に擁かれていたい。秋の虫の音色が歌声に混じり合う。

私の憧れる「笠 智衆」がサーファーだったらどんな乗り方をするのか想像してみた。波が来たらゆっくりと方向転換をし、なんとかテイクオフ。あとは波の推進力を利用しロングボードの上に枯れ木のように立っているのみ。余分な動きは一切無い。岸まで行き着きその日は終了。これはある意味、ミニマリズムであり禅である。
五十も半ばに近ずいてくると、何歳くらいまで波に乗っていられるのか良く考える。足腰が弱まりスタミナが無くなって来てもRYU’S RIDING STYLEなら結構イケルかも知れないと思ったりする。
緩慢な動作と間のあるしゃべり方の笠智衆。居住まいをすっきりさせ、きれいに老いた爺さんの姿がそこにある。生き方もRYU’S STYLEを見習いたい。
